Political Economy & Economic History Society

政治経済学・経済史学会


第5回(2010年)政治経済学・経済史学会賞
The 2010 Political Economy and Economic History Society Prize


1.授賞作品と会員氏名
森 宜人著『ドイツ近代都市社会経済史』(日本経済評論社、2009年2月)
2.授賞理由

 森宜人の著書は、1880年代~1930年代初頭にいたるフランクフルト・アム・マインを取り上げ、電力業政策の実態とその帰結としての都市電化のプロセスの分析を通じて、当該時期における「自治体給付行政」の変遷と都市社会の質的変化(いわゆる「都市社会化」)を、「市参事会文書」、「市営供給事業文書」などの未公刊史料を含む豊富な一次史料に基づいて実証的に解明した労作である。
 第一の分析課題、電力業政策の実態については、都市の社会経済状況(都市空間の拡張、住宅・衛生問題、市街鉄道の電化、手工業用電動機の普及等)、財政的・技術的制約、市域外の広域発電企業の動向を視野に入れながら、市の電力ネットワークの形成・拡張およびシステムとしての自律性確保の過程が克明に描かれる。
第二の分析課題、都市電化のプロセスについては、それを電力の都市への導入からその必需化にいたる過程と定義し、都市電化は第二帝政期の市街鉄道セクターからヴァイマール期の照明セクターへと段階的に移行したこと、またその過程でいずれのセクターにおいても料金政策が重要な役割を演じたことが明らかにされる。
 本書は、「電力」という近代都市生活のインフラの基本的要素に着目し、それについて社会経済史的・経営史的視点を軸に、技術史的視点や文化史的視点をも加味した多角的視点から実証的に分析し、全体として、ドイツ近代都市史研究に新しい方法と知見を提供することに成功している。とりわけ、以下の3点が貴重な貢献として評価に値する。
 第一に、「自治体給付行政」の視点からの電力業政策の分析を経糸とし、都市電化の社会経済的帰結の分析を緯糸として、第二帝政期からヴァイマール期にいたる時期を一体的・連続的に把握していることである。従来の研究では、都市の政治的・財政的自主性を主たる指標として、第二帝政期とヴァイマール期の断絶性が強調されてきた。これに対して、本書は、電力の必需化をもって都市の電化と捉える視点から、ヴァイマール期に必需的エネルギーへの移行が実現されたこと、さらに広域発電システムの確立期とみなされるヴァイマール期においても自律的な都市発電システムの再編が成功裏に達成されたことを根拠として、両時期を一体的・連続的に捉える斬新な視点を鮮明に提示している。
 第二に、ヴァイマール期に広域発電システムと並存して都市発電システムが存続したという指摘の意味するところは重要である。本書は、ヴァイマール期における行財政の中央集権化と都市自治体の影響力の低下を指摘する通説に対して、電力業に関する事業主体ないし政策主体の重層性を指摘し、「都市から国家へ」という発展段階論的把握を再検討する必要を指摘している。この点は、広く都市自治体給付行政一般と「社会国家」の関係、ひいては近代と現代の関係をどのように捉えるかというより大きな問題にとっても示唆的な重要な指摘である。
 第三に、電力業政策の変遷を切り口としながら、それを交通・住宅政策、中間層救済政策、財政政策、隣接地域との経済的関係など、他の諸政策と結び付けて分析することによって、都市史研究を越えて社会経済史研究の広汎な分野にとって有益な知見を提供し、狭い意味での「ドイツ近代都市社会経済史」にとどまらず、ドイツ近代社会経済史の貴重な研究となっている。



2010年11月13日

学会賞選考委員会
廣田功(委員長)、加瀬和俊、金子文夫、谷口博和、福士正博


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