Political Economy & Economic History Society

政治経済学・経済史学会


第7回(2012年)政治経済学・経済史学会賞
The 2012 Political Economy and Economic History Society Prize


1.授賞作品と会員氏名
韓載香『「在日企業」の産業経済史ーその社会的基盤とダイナミズムー』名古屋大学出版会2010年02月
2.授賞理由

 授賞理由
 本書は、これまで経済史がほとんど取り上げてこなかった在日韓国・朝鮮人(以下「在日」とする)の経済活動、すなわち在日が所有し経営する企業と諸産業について、戦後約50年にわたって生み出されてきた歴史的特徴とそれが形成された要因を明らかにするため、新たに研究方法を開発しつつ初めて本格的に分析した力作である。
 当初の課題意識は、異なる文化的背景をもった移民(民族、エスニック)が異国の社会に定着=適応するときに直面する問題を、エスニック・タウンを通して考えたいというものであった。そこで、アメリカにおけるエスニック・エコノミー論(とくにI. H. Light)に触発されてエスニック・エコノミーのダイナミズムの面に着目し、日本の歴史研究や調査における停滞イメージや差別論の限界を超えるため、「歴史的に蓄積される資源という視点から、企業を分析単位として」「歴史的な変化に留意しつつ在日の経済活動の特徴や要因を解明する」ことを課題とした。具体的には、『在日韓国人企業名鑑』(統一日報社)などの「名鑑」類、『信用組合便覧』など経済経営統計類、代表的在日金融機関の社史類、多様な調査報告やモノグラフ、新聞雑誌記事などに加えて、多数の在日企業関係者への聞き取り調査結果を駆使し、全国ないし地域全体の動向と比較して在日企業の特徴を明確にした(区別の明確化)上でコミュニティの機能と照合し、従来の停滞イメージに対し、在日コミュニティが持つ資源によって在日企業群の特定産業への集中とスピーディーな産業構造転換というダイナミックな特徴が生まれたことを、浮き彫りにした。
 こうして、在日産業経済のダイナミックな変化を作り出したのは、次のようなコミュニティの機能であったことを明らかにした。
 このコミュニティは、まずはエスニック・タウンのそれだが、在日企業間の取引や交際などを含み、必要に応じて利用される民族的繋がり=ネットワークとしての重層的なものであり、しかも外部の経済情報を積極的に取り込むものであり、したがって民族性として所与のものではなく歴史的に形成され、変化し、再結成されるものととらえている。
 このコミュニティ機能は、第一に情報であり、差別によって社会的に限定された選択肢しか与えられない状況を背景として特定の産業に偏在した情報が在日コミュニティ内に蓄積(再生産され)されて「塊」として存在し、特定産業への集中とその事業転換の速さを生んだことを、戦前からの就労経験と連続性をもつ京都府繊維産業と戦後全国的に発展したパチンコ産業の事例とにより明らかにしている。第二は金融であり、民族系金融機関(信用組合)が、一般金融機関との取引が困難な産業(飲食店、貸金業、不動産)と、成長産業(パチンコ産業)における企業成長の初期段階において、資金供給の点で重要な役割を果たしたことを明らかにした。さらに、在日企業の成長にはコミュニティの外部(開かれた市場)への進出が不可欠となり、それによってより大規模な日系金融機関との取引も必要となって金融面での在日企業のコミュニティ依存性は低下したが、コミュニティはこの企業成長と結びついて情報機能を「自己増殖」させ、成長する在日企業との関係を維持したことも、明示した。
 以上のように、経済史のなかで民族性を取り上げる方法を練り上げながら、その必要性を明確にした。取り上げた産業は限定され、母国の経済発展を含む外部経済との関係もさらに多面的な検討を要するが、この方法は在日コリアン以外の民族性の分析においてもテストされる価値があり、それを通じてさらに発展させられる可能性がある。

 



2012年11月10日

学会賞選考委員会
永岑三千輝(委員長)、疋田康行、春日豊、土井日出夫、野田公夫


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