Political Economy & Economic History Society

政治経済学・経済史学会


春季総合研究
Spring Meeting

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日  時 2012年6月30日(土)、13:00〜17:00
会  場 東京大学経済学研究科棟 地下第1教室
テーマ 「システム危機の歴史的位相−ユーロとドルの危機が問いかけるもの−」
問題提起 矢後和彦(早稲田大学)
報告者と論 題 1.産業危機とヨーロッパ統合−戦後フランス政府の危機対応戦略−石山幸彦(横浜国立大学)
2.ユーロ危機とイギリス−通貨統合不参加の背景と影響−菅原 歩(東北大学)
3.アメリカの対外経済政策と成長モデル 大橋 陽(金城学院大学)
4.グローバル危機と東アジア経済圏 金子文夫(横浜市立大学)「本文」「表」
コメント 佐藤隆広(神戸大学)
増田正人(法政大学)
司  会 浅井良夫(成城大学)・大杉由香(大東文化大学)
注  意 ダウンロードした報告原稿等を著者に無断で引用することを禁止します。
趣  旨  ユーロが危機に直面している。EU加盟諸国の債務危機と金融システムの危機はユーロ存立の危うさを一気に露呈させた。EU財政協定の調印(2012年3月2日)でひとまずは急場をしのいだものの、失業率は相変わらず高く統一欧州の経済・社会はこれまでにない閉塞感に直面している。この事態からただちに「ユーロ崩壊」をいうのは性急であり、欧州の政策当事者からは「当面の危機を乗り越えればユーロは強くなる」という声も聴かれるが、統一欧州の理想がいま重大な歴史的岐路にさしかかっていることに異論はないだろう。
 他方でドルも危機のさなかにある。基軸通貨ドルはニクソン・ショック後の凋落、1990年代の復活を経て、いままたその危機を迎えており、かつては「危機管理者」を任じていたアメリカもIMFもともにその力量を低下させている。変動相場制は「ノン・システム」と称されながらも有事に際してはアメリカやG7など主要国の連携で危機を回避してきたが、現在の国際通貨・金融システムは真の「ノン・システム」へと向かっているかのようである。アメリカの失業率・株価等の指標は一進一退のなかで回復しているとはいえ、ドル基軸の世界的な資本蓄積もまた大きな転換点を迎えているといえよう。
 政治経済学・経済史学会の2012年度春季総合研究会では、以上にみたユーロ圏と基軸通貨ドルが直面している危機の総体を「システム危機」ととらえて、この「システム危機」の歴史的位相を検証することを課題とする。ここでいう「システム危機」とは、さしあたり(1)欧州における低成長と雇用危機を通貨統合と市場メカニズムに依って打開し、なおかつそれなりの「社会的ヨーロッパ」を志向した20世紀資本主義=福祉国家システムがその存立の根幹を揺さぶられている危機、(2)冷戦体制下で資本主義世界の蓄積を保障する国際体制としてブレトンウッズ体制を再編して出発した変動相場制、その制度的保障としてのドル基軸通貨、管理フロートとフリー・フロートを行き交う国際協調体制がシステムとしての運行を停止するかもしれぬ危機、(3)途上国・新興国における成長を支えてきた諸条件が欧米における危機と共振しながら動揺し、権威主義的開発主義体制が存立をゆるされなくなる危機、と要約できるのではないだろうか。
 いうまでもなく、ユーロ危機の原因をたんに欧州統合の制度上の不備に帰してしまう見方、あるいは当面する国際通貨・金融システムの危機が「誰にとっての」「いかなる」危機かを問うこともなくこれまでの資本蓄積の条件だけを維持しようとする見方、あまつさえ危機を喧伝しながら危機の本質には眼を閉ざしてあらたな収奪と国民負担だけを引き出そうとするかのごとき見方は、いずれも学問的な検証には耐えない皮相な見解であろう。その反面で、当面の危機をごく一般的な「資本主義の危機」とみなしてその深化の暁に次のシステムが用意されているかのごとく展望する危機論も一面的だったといわねばならない。「システム危機」という耳慣れない用語をここであえて仮設するゆえんである。
 以上の問題設定に立って、春季総合研究会は次のように構成する。
(1)ユーロ危機の現状と歴史的段階をユーロ参加主要国の視点からあきらかにする。
(2)かつての基軸通貨であったポンド圏の歴史的推移からユーロの現状を照射する。
(3)国際通貨・金融システムの軸心としてのアメリカの危機も取り上げ、アメリカにとっても制御できなくなってきた「システム危機」の現段階を解明する。
(4)この「システム危機」にアジアがどう向き合うか、という論点を歴史的な視点からとりあげる。
(5)コメントは、第一に新興国の事例としてインドの対応を取り上げて、「システム危機」にBRICsと呼ばれる諸国がどのように向き合っていくかを検討する。第二に「システム危機」の理論的・金融的側面について最新の知見を紹介し、報告の全体像を整理する。
 なお通貨・金融システムと不可分の雇用・福祉システムや、環境・農業にかかわる論点の詳細については秋季学術大会をはじめとする今後の検討にゆずることとする。
 このように今期の春季総合研究会は、ユーロとドルに焦点を置きながらも、金融論・国際情勢論に閉じこもるのではなく、「システム」の広域に視野を広げ、国民国家論・資本蓄積論に論点を届かせようとする試みである。資本主義国家と議会制民主主義の正統性はどのように再定義されるのか、世界の成長のセンターがアジアに移動するなかでグローバル・インバランスと国際通貨・金融システムはどのように再編されうるか――こうした問いに開かれた討論が期待される。学会内外からの積極的な参加を歓迎する。
*報告フルペーパーが事前に学会ホームページ(http://seikeisi.ssoj.info/Spring-Meeting12.htm)に掲載されますので、予めご参照ください。
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