Political Economy & Economic History Society

政治経済学・経済史学会


春季総合研究会
Spring Meeting

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日  時 2015年6月27日(土)、13:00〜17:00
会  場 東京大学経済学研究科棟 地下第1教室
テーマ 多国籍アグリビジネスによる農業・食料支配の現段階
報告者と論 題 1.磯田宏(九州大学)「米国におけるアグロフュエル・ブーム下のコーンエタノール・ビジネスと穀作農業構造の現局面」
2.佐野聖香(東洋大学)「ブラジルにおける多国籍アグリビジネスの展開と農業構造の変化」
3.関根佳恵(愛知学院大学)「多国籍アグリビジネスの事業展開と日本農業の変化--新自由主義的制度改革とレジスタンス--」
4.吉田義明(千葉大学)「バイオテクノロジーと知的財産権--植物遺伝資源の利用と独占の現段階--」
コメント 1.立川雅司(茨城大学)「対抗軸の構築とその到達点」
司  会 安藤光義(東京大学)・後藤光蔵(武蔵大学)
注  意 ダウンロードした報告原稿等を著者に無断で引用することを禁止します。
趣  旨  2000年代に入り,穀物等市場をめぐる動きは複雑さを増している.複雑さの要因は,@生産力水準の高まり,A不安定要因の拡大,B新技術体系への不安に起因している.第1の生産力水準についてみると,2014年の穀物等生産量は24億7500万トンに達しており,1970年と比較して2.3倍に増加している.総じて穀物等の供給は需要を上回るペースで増加しており,需給動向だけを見れば,食料問題はすでに解決しているかのように見える.
 しかし,その反面,市場の不安定要因が増していることを見落としてはならない.これには3つの局面がある.1つは,穀物等の需給変動である.2002年におけるアメリカ,カナダでの同時不作,2006年と2007年の二年連続でのオーストラリアの干ばつなどの影響で期末在庫率は一時17%台まで低下した.そして,いま1つは投機的資金の流入である.需給に変動が生じていた2007年から2008年にかけて,サブプライムローン問題とリーマン・ショックが世界的金融危機へと波及した.この結果,投機的資金が穀物市場へ流入し,穀物等価格はいっきに上昇することになり,大豆では,2007年1月にブッシェル当たり6.7ドルだった価格が2008年7月には16.6ドルまで上がった.その後,2012年まで高値で推移したあとは下落するが,それでも2006年の価格に比べて1.3から1.8倍で推移している.この間の動きは,作物の豊凶変動に加え,投機的資金が新たに穀物市場を攪乱する要因に加わったことを示したのである.
 さらに,将来における穀物等の需要の高まりも不安定要因となる可能性が高い.現在,中国における大豆の輸入量は7400万トンで,日本の26倍,世界全体の65%を占めるに至っており,今後もアフリカ等の新興国も含め需要はさらに高まると予測されている.また,バイオエタノール生産の拡大による食料および飼料用作物の作付けの減少も,市場を不安定化する可能性が高い.とりわけ,原料にトウモロコシを利用するアメリカでは,需要量の4割弱がエタノール向けとなっており,飼料等の作付けへの影響は小さくないだろう.
 以上,2つの要因に加え,第3の要因として挙げられるのが新技術導入への不安である.ここでいう新技術体系は,1953年DNAの二重らせん構造の発見(1953年)とクローニング技術の確立(1973年)を基盤として本格化したバイオテクノロジーを指す.そして,新技術体系への不安とは,BTによって生み出される遺伝子組み換え作物に関わる不安(安全性や遺伝資源をめぐる問題など)と,この技術を資本が独占することに対する不安である.遺伝子組み換え作物は,1994年「フレーバーセーバー」トマト(カルジーン社)が初めて販売を認められ実用化へ移行して以来,消費者の不安は置き去りにされたまま作付けだけが一方的に拡大している.この結果,2014年の遺伝子組み換え作物の栽培面積は1億8150万haに達し,このうち最も作付けが多いアメリカ(7,310ha)では,大豆,トウモロコシ,綿花のそれぞれ90%以上が遺伝子組み換え作物となっているのである.
 この動きの主役をなしてきたのが,多額の研究開発投資が可能な資金力を持ち知的所有権を楯に開発品種の独占を目指す多国籍アグリビジネスである.アグリビジネスは,農業関連産業のことでその存在は古くから認められるが,ここで対象とするのは,1980年代後半以降おける国境を越えた展開やM&Aを通じた多角的な事業展開を特徴とするそれである.巨大化した多国籍アグリビジネスは,育種技術を独占することで生産--流通--加工--販売の全過程における影響力を格段に強めてきた.その影響力の大きさは,TPP交渉など農産物貿易の自由化を求めるアメリカの主張が多国籍アグリビジネスの利益を代表していることにも現れている.
 このような状況を受け,1990年代以降,多国籍アグリビジネスに関する研究が進んだ.日本では,中野一新氏らの研究グループがいち早く着手し,多くの成果が積み重ねられてきている.しかし,この分野の研究は,企業秘密の壁に阻まれ多国籍アグリビジネスそのものにメスを入れることは困難を極める.したがって,多国籍アグリビジネスによる農業・食料の包摂がどこまで進んでいるのかについては,十分に解明されたとは言い難い.また,バイオテクノロジーの進歩は日進月歩であり,多国籍アグリビジネスも日常的に変化を繰り返している.
 そこで2015年春季学術大会では,現段階における多国籍アグリビジネスの農業・食料支配の実態について検討することにしたい.その際,特に次の論点の検討を通じて,多国籍アグリビジネスによる支配の実態をできる限り具体的に把握することが狙いである.第1に,農業・土地所有,農民との関係において多国籍アグリビジネスの影響力はどうなっているか,第2に,知的財産権を楯とした多国籍アグリビジネスの展開がどのような問題をもたらしているか,第3に,多国籍アグリビジネスによる農業・食料支配への対抗軸をどこに見出せるか,という点である.
 また,このテーマの検討は,冷戦体制解体後の資本主義分析にも一定の貢献をするものと考えている.情報通信革命(IT)とバイオテクノロジー(BT)は,現段階の資本主義の生産力基盤となっているからである.幅広い視点からの検討を期待したい.

*6月20日前後に各報告・コメントのフルペーパーが学会ホームページに掲載される予定です。事前にご参照のうえ、ご参加下さい:http://seikeisi.ssoj.info/Spring-Meeting15.htm
 お問い合わせは政治経済学・経済史学会事務局まで:seikeishi「@」gmail.com


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