Political Economy & Economic History Society

政治経済学・経済史学会


春季総合研究会
Spring Meeting

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日  時 2017年6月24日(土)13:00〜17:00
会  場 東京大学経済学研究科棟 地下第1教室
テーマ グローバル経済史にジェンダー視点を接続する
報告者と論 題 1.山本 千映(大阪大学)「産業革命とジェンダー    ーアレン=ハンフリーズ論争の論点整理ー」
2.竹田泉(成城大学)「18ー19世紀イギリスの消費文化とジェンダー ーグローバル史の視点からー」
3.網中昭世(アジア経済研究所)「市場の表裏とジェンダー  ー20世紀初頭南部アフリカにおける還流型移民を中心にー」
4.福島浩治(駒澤大学)「フィリピンにおける開発とジェンダー  ーグローバル化する再生産領域と「抵抗の回路」ー」
コメント 1.日本経済史の立場から 谷本雅之(東京大学)
2.ジェンダー史の立場から 姫岡とし子(東京大学名誉教授)
司  会 小野塚 知二(東京大学)・榎  一江(法政大学)
注  意 ダウンロードした報告原稿等を著者に無断で引用することを禁止します。
趣  旨  2000 年代以降のグローバル史の世界的活況は目覚ましい。その研究潮流は先行したグローバル化をめぐる人文社会科学全般での議論への歴史学からの応答として始まったといえよう。これに呼応するように、近年、経済史学界でもグローバル経済史を掲げた研究ないしは概説・入門書が刊行されている。このグローバル史・グローバル経済史に先行して、1990年代以降、性差による社会秩序の構築とそこに内在する権力関係に着目したジェンダー研究は、人文社会科学全般に大きな影響を及ぼしてきた。しかし、グローバル史・グローバル経済史とジェンダー研究は、互いにどのように接続すべきか、そのあり方を探っているかのようである。
 例えば、2011年に『グローバル経済史』(グローバル経済史研究会訳『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』2012年)を掲げたイギリス産業革命研究者であるロバート・C・アレンは、産業革命がイギリスで始まった要因を、グローバルな視点からの国際比較・地域比較を通じてイングランドの男性労働者が相対的に高賃金であったことに求めている。このアレンの高賃金論に対して、イギリス産業革命期における児童労働を専門とするジェーン・ハンフリーズは、アレンの主張を「家父長主義的」な仮定に基づいた「非歴史的」な解釈と批判し、現在、論争が展開されている。あるいは、ティヌ・ド・ムーアとヤン・ライテン・ファン・ザンデンは、「ガール・パワー」と題した2010年の共著論文のなかで、近代ヨーロッパの経済成長の要因を中世後期に生じた北西ヨーロッパに特有の結婚パターンとそれにともなう女性の積極的な労働市場への参加に求めている。これに対して、ロシア・中欧を研究対象地域とするトレーシー・デニソンとシェイラ・オグルヴィは、「純粋」にヨーロッパ型結婚パターンが該当する地域の当該期の経済成長はむしろ緩慢であったこと、また女性の権利拡大と結婚パターンとの相関への疑問を投げかけつつ、経済成長のなかで安易に女性の地位や家族要因を強調することを批判している。
 上記の二つの議論は、そもそもイングランドあるいは北西ヨーロッパでなぜ他の地域に先駆けて産業革命が起きたのかという古典的な議論に、ジェンダー視点が必須かどうかという問いを投げかけるものである。さらに、この問いは、世界経済統合が本格化した19世紀グローバル化や、あるいは現代経済におけるグローバル化にまで時間軸を伸ばした場合でも、グローバル経済史を叙述する際に、ジェンダー視点が必要不可欠かどうか、言い換えればグローバル経済史はジェンダー視点を入れなくても叙述可能なのかどうか、という挑戦的な問いに至るだろう。少なくとも、2014年に刊行された日本での先駆的な通史的試みである杉山伸也『グローバル経済史入門』を手にとれば、グローバル経済史とジェンダー視点との接続の回路は見いだせていないことがわかる。
 これまでにジェンダーの視点を導入した経済史研究は、性差による社会秩序の構築とそこに内在する権力関係に着目し、個人単位から家族・地域・国家、さらに世界経済にいたるあらゆるレベルで成果を積み重ねてきた。グローバル経済史を描く際にも、ジェンダー視点の導入の是非がふたたび問われることになるだろう。上述のハンフリーズとアレンの論争は比較史の手法に基づくものであるが、関係史の手法でグローバル経済史を描く際にも、ジェンダー視点は必要不可欠かどうかが問われるだろう。関係史の手法で叙述されるグローバル経済史は、ネットワークの形成、つまり人の移動やモノ・カネ・情報の流通を重視する傾向にある。しかし、かつて世界経済論が生産立地のグローバルな再編過程における生存維持経済の重要性を指摘したように、生産局面とそこでの性差に基づく社会秩序は世界経済統合にとって決定的な要因の一つであった。グローバル経済史が世界経済と地域経済との間の相互作用とそれぞれの社会・経済秩序の再編を視野に入れるならば、生産・流通・消費の諸局面を視野に入れたうえで、各局面でのジェンダーの規定性や諸局面間の相互規定性を考慮することが求められるのではないか。
 このグローバル経済史という試みが始まった現段階を踏まえて、2017年度春季総合研究会では、グローバル経済史にジェンダー視点は必要不可欠かどうかを問いたい。まず、山本千映報告では、アレン=ハンフリーズ論争での論点が整理される。この作業は、工業化の初発の段階でのジェンダー視点の有意性を議論することにつながるだろう。この作業が主に生産の局面を問うものであるのに対して、続く竹田泉報告では、グローバル史でしばしば採用される帝国という枠組みを設定し、とくに消費の局面からグローバル経済史とジェンダー視点の接続を試みる。これらの報告の後に、世界経済統合が本格化した19世紀末から20世紀初頭を扱う網中昭世報告と新国際分業以降の現代経済を扱う福島浩治報告では、それぞれ南部アフリカ地域とフィリピンを事例に、ジェンダーの視点から移民労働と送り出し社会の変容に焦点をあてる。アジアとアフリカを題材としたこれらの作業は、イギリスや北西ヨーロッパをモデルとした経済成長とジェンダーの関係性とは異なるモデルを析出することにつながるだろう。また、この作業はジェンダー史にとってのグローバル経済史の有意性を論じる一助になるかもしれない。これらの4報告を受け、日本経済史の立場から谷本雅之氏より、またジェンダー史の立場から姫岡とし子氏よりコメントをいただく。本学会員のみならず、本テーマに関心をもつ方々の参加をお願いしたい。
*6月20日前後に各報告・コメントのフルペーパーが学会ホームページに掲載される予定です。事前にご参照のうえ、ご参加下さい:http://seikeisi.ssoj.info/Spring-Meeting17.htm
 お問い合わせは政治経済学・経済史学会事務局まで:seikeishi@gmail.com



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